土地を探していると「用途地域」という言葉をよく見かけます。
土地の「用途地域」を知ることでその地域がどのような特徴の地域なのか、住みやすいのか、将来的にはどのような街になるのか、色々なことが推測できます。
この用途地域を確認せずに土地を選んでしまうと、最悪の場合、家を建てることができなかったり、想い描いていたプランが叶わなくなってしまう可能性があります。
この記事を読むとこんなことがわかります!
・用途地域とは何か
・用途地域の種類とその特徴
・各用途地域の住み心地
この記事の目次
用途地域とは
用途地域とは「この地域はこんな街にしましょう!」と街づくりのテーマを掲げたものです。
都市の計画に合わせて13種類ある街づくりのテーマ(用途地域)から1つが設定されます。(地域によってはそもそも用途地域がない場所もあります)
そして、それぞれの用途地域にはそのテーマに合ったルールが決められています。
例えば、都市計画により「ここら辺を住宅地にしよう!」と決められた地域では、「日当たりが悪くなるような大きな建物や騒音などの公害の心配がある工場は建設禁止にする」といったルールを決めることができます。
もし用途地域がなかったら、住宅街の中に煙をモクモク吐き出す工場が建ってしまったり、大きなタワーマンションが建って日当たりが悪くなってしまったり…。
きちんと用途地域とルールを決めて「住宅向けの地域」「商業向けの地域」「工業向けの地域」と地域分けすることで、みんなが活動しやすく住みやすい街が実現できるのです。
用途地域は13種類ある
↑↑これが13種類の用途地域です。
・住宅地向けの「住居系の用途地域」8種類
・お店や事務所、遊戯施設向けの「商業系の用途地域」2種類
・工場向けの「工業系の用途地域」3種類
住居系、商業系、工業系、それぞれの〇〇系の中で似たような名前の用途地域ばかりで混乱してしまうかもしれません。
全ての名前を一語一句覚える必要はありません。
各用途地域の名前のニュアンスでなんとなくわかるように説明していきますのでご安心ください。
名称を覚える必要はありませんが、13種類の並び順は結構大切なので、少し意識してみておいてください。
それぞれの地域にはルールが決められています。
建物の使用目的によって「建てられるもの」と「建てられないもの」といった建物の用途の制限や日当たりや建ぺい率、容積率などの制限もあります。
(建ぺい率と容積率についてはこちらの記事で解説しています↓↓)
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「建ぺい率」「容積率」を簡単に解説!家を建てるなら知っておこう!
「建ぺい率」と「容積率」は家を建てたり、土地を購入したりするときに重要なものです。知らないまま放置すると、最悪の場合、想い描いていた家が建てられない可能性もあります。難しい話はナシにして、まずは建ぺい率と容積率を簡単に解説します!
このあと解説する「規制」の内容はたくさんあるのでわかりにくいかもしれません。
なので、解説へいく前に考え方のちょっとしたポイントを伝授します。
例外もありますが、基本的に第一種低層住居専用地域から商業地域になるにつれて、用途地域の規制が緩くなっていきます。
たとえば、第一種住居地域ではカラオケボックスを建てることはできませんが、第二種住居地域では建てることができます。
第二種住居地域で建てることができるカラオケボックスは第二種住居地域から商業地域までの地域でも建設可能です。
逆に第一種住居地域で建設できないカラオケボックスはその地域より厳しい地域(第一種住居地域から第一種低層住居専用地域まで)で建設できません。
少しややこしい話でしたが、「第一種低層住居専用地域は規制が厳しく、商業地域になるほど緩くなる」というポイントを抑えておくと、用途地域がわかりやすくなります。
工業系の用途地域も同じように「工業専用地域」が規制が厳しく「商業地域」にいくほど緩くなります。
ちなみに「工業専用地域」だけは住宅を建てられないので絶対に選んではいけません。
また、「第一種〇〇地域」「第二種〇〇地域」とある地域は「第一種」の地域の方が規制が厳しい地域になります。
用途地域がわかると、その土地での暮らしが見えてくる
「規制が厳しい」と聞くと、堅苦しく住みにくそうに感じるかもしれませんが、一概にそうではありません。
「用途地域の規制が厳しい」ということはその地域で建築できる建物の用途が限られていたり、みんなが日当たりを確保できるように建物の大きさを制限されていたりします。
建物の用途や大きさが厳しく制限されている第一種低層住居専用地域では主に住宅しか建てることができません。
コンビニすら建てることができないので不便に感じるかもしれません。
しかし言い換えると、その地域の住人以外の人の利用は少なく、静かな環境で暮らすことができる。ということです。
建物の大きさが制限されていることで、日当たりが良く風も抜けて衛生的にも良い環境で生活ができます。
規制が緩い用途地域(商業地域側)ではショッピングモールや百貨店などの大型店舗や遊戯施設が建てられたりするので利便性が高いです。
日当たりの規制や建ぺい率・容積率の規制も緩いので、自分たちの家も大きな家を建てることができます。
その代わりに車や人通りが増えて毎日騒がしかったり、いきなり近所にマンションが建って日当たりが悪くなることがあります。
規制が厳しいから良いとか悪いということではなく、自分たちが叶えたい暮らしがどの地域なら実現できるかを考えることが重要です。
これからそれぞれの用途地域の特徴や様子を解説していきます。
その地域に合わせた家を建てることで、そこの用途地域のメリットデメリットを活かした家づくりをすることができます。
《住居系》用途地域 8種類
住居系の用途地域は主に住環境を重視した地域です。
ここでいう「住環境」は日当たりや風通しなどの衛生環境や騒音、空気汚染などの公害が少ない環境など、健康的に生活できる環境のことです。
通勤や買い物に便利とか病院が近いといった利便性とは違いますので区別して考えてください。
住居系の地域は「〇〇住居 専用 地域」と「□□住居地域」があります。
「住居 専用 地域」は特に住環境を優先した地域です。
一部の店舗を建てることは可能ですが、大きな店舗は建てられません。
「住居地域」は住環境も重視されていますが、スーパーマーケット や事務所、ホテルなど一部の商業施設も建てられる地域です。
*画像では「田園住居地域」から始まりますが、説明の都合上、田園住居地域は住居系用途地域の最後に紹介します。
第一種低層住居専用地域
低層の住宅地を形成するための地域です。
建物の高さに制限が設けられており、10mまたは12m(大きくても3階建くらい)までの建物しかたてられません。
店舗も建てることができますが、店舗部分の床面積が50㎡以内の店舗併用住宅という制限があります。
最大でも30畳ほどの店舗しか建てられないので、コンビニも建てることができません。
そのため、日用品の買い物などは他の地域まで出る必要があります。
利便性は良くないですが、その分、店舗が少ないので地域住人以外の往来が少なく、静かな環境で暮らすことができます。
また、建ぺい率と容積率も厳しいので、建てられる建物の大きさに制限があります。
隣地境界線から外壁を1mまたは1.5m以上後退させる必要があります。
そのため、建物同士の間隔には最低でも2mと余裕があります。
建ぺい率が厳しいとその分、庭や駐車場のスペースが確保できます。
静かな環境で庭なども確保できるので、小さいお子さんがいる家庭はのびのびと暮らすことができます。
第二種低層住居専用地域
高さの制限は第一種低層住居専用地域と同じで10mまたは12m以内の建物しか建てられません。
ここでは床面積150㎡までの店舗を建てることができるので、コンビニも建設可能です。
店舗が独立して建っているコンビニの床面積は約130㎡~200㎡です。
小さめのコンビニほどの大きさの店舗なら建てることができます。
そのため、第一種低層住居専用地域と同じように日当たりや庭、駐車場の確保ができて、さらにちょっとした買い物もできる地域なので便利です。
ですが、第一種低層住居専用地域と同様にスーパーマーケットやショッピングモールなどの日用品の買い物は車などで他の地域まで出る必要があります。
第一種中高層住居専用地域
中高層の住宅のための地域です。(中高層とは3階建以上のマンションなどの集合住宅のこと)
店舗は2階建以内で床面積500㎡までなら建設可能です。
テニスコート2面分がだいたい500㎡なので、飲食店やちょっとした買い物ができるお店が建てられます。
大型の商業施設や遊戯施設は建てられないけど、買い物などの利便性は良くなっています。
大勢に人が集まる大型ショッピングセンターや遊戯施設がないので、静かで住みやすい地域です。
ですが、近くに大きいマンションなどが建つ可能性もあるので気をつけましょう。
保育施設や小中学校、高校、大学などの教育施設や病院、図書館も建設できます。
第二種中高層住居専用地域
店舗は2階建て以内で床面積1500㎡以内なら建設可能です。
1500㎡とは大体バスケットボールコート3面分くらいです。
広い店舗が建てられるので利便性は上がりますが、その代わりに静かさは劣っていきます。
事務所やガソリンスタンドも建てられるようになります。
この地域のあたりから少しづつ「職」と「住」の距離が近づいてきます。
第一種住居地域
ここからは「住居専用地域」ではなく「住居地域」になります。
「専用」ではないので、商業施設が多くなります。
店舗は3000㎡までに広がり、ボーリング場やホテルも建設可能です。
商業施設や遊戯場が建てられるので、人や車の往来が増えてにぎやかになります。
危険性や環境に悪影響が非常に少ない50㎡以下の小規模な工場も建てられるようになります。
「住居専用地域」では住環境を重視していましたが、「住居地域」は住環境も大切して、それに加えて、買い物や通勤などの利便性を取り入れた生活のしやすい地域です。
ただ、にぎやかな環境がイヤな方や将来的に近所に商業施設が建って車通りが増えたり、日当たりが悪くなったりすることがイヤな方は注意しましょう。
第二種住居地域
建設可能な店舗は10000㎡以下まで大きくなります。
さらにパチンコ店やマージャン屋など遊戯性が高い施設も建設可能になります。
近場で遊んだり、買い物をするのには便利な地域です。
準住居地域
国道や幹線道路沿いに指定されることが多い地域です。
自動車ディーラーの店舗や自動車修理工場などの自動車関連施設が建ち並んでいることが多いです。
住居系の地域の中では一番規制が緩い地域です。
幹線道路も近いので交通に便利で買い物などの利便性も高いです。
ただし、騒音や排気ガス、人や車通りが多いことが欠点です。
田園住居地域
住居系の地域の中でこの「田園住居地域」は少し変わったポジションになります。
今までの用途地域の設定する目的は1つの地域に「住居」「商業施設」「工場」などの用途が混在してしまうと、みんなが利用しにくくなってしまうので、地域ごとに建てられる建物を決めて、みんなが利用しやすい街づくりをするためでした。
しかし、「田園住居地域」は違います。
この用途地域はつい最近、2018年の4月から追加れた用途地域です。
農地の「2022年問題」と言われている「土地の価格のバランスが崩れてしまう可能性がある」という問題の対策のためにこの「田園住居地域」というものが追加されました。
2022年問題について簡単に説明すると、今は「市街化区域」という優先的に市街化を進めていく地域内にある農地は継続的に農業をやってもらうために税金が安く済む政策がされています。
ただし、この農地の税金が安く済む政策には期限があります。
それが2022年です。
2022年に多くの農地が正規の高い税金に戻ってしまうので、その大部分の土地が売りに出されてしまう可能性があります。
そうなると、住宅地の価格のバランスが崩れ、混乱を招いてしまう恐れがあります。
その対策として「田園住居地域」が設定されました。
農地の税金が高くなるまでの猶予をさらに伸ばし、農業が営みやすい地域にすることで、農地が一気に売るに出されるのを防ぐという仕組みです。
田園住居地域の建築制限は「第一種低層住居専用地域」とほとんど同じです。
違うのは「農業が営みやすい地域にする」という点です。
なので、第一種低層住居専用地域のルールに加えて、
農産物直売所や農家レストランなどの農業の利便性増進に必要な施設を建設できます。
農業を営むわけでなければ、第一種低層住居専用地域と同じと思っても大丈夫です。
「田園住居地域」と聞くと、「農業を大切にして守っていく地域」のように感じるかもしれません。
ですが、そうではなく先ほども説明した通り、あくまでも土地の価格のバランスを保つための対策としてできた用途地域です。
そもそもこの田園住居地域は「市街化区域」という市街化をどんどん進めていく地域です。
「農業を守っていく」ということではなく、「農地の一斉売却を防ぐために農業を営みやすい地域にする」という感じです。
現状で購入した土地の近くが農地だったとしても将来的には売却されて宅地になる可能性があるので気をつけてください。
《商業系》用途地域 2種類
大きな店舗や遊戯施設などが建ち並び、大勢の人が訪れる地域です。
利便性は高いですが、交通量も人も多く騒がしい地域になります。
規制が緩いので設計の自由度は高いですが、建物が密集しているため日当たりや騒音に不安があります。
住宅も建てることができますが、居住性はあまり高くないです。
近隣商業地域
昔ながらの商店街が「近隣商業地域」に指定されていることが多いです。
周りの地域の住民が日用品などを買いに来ることが目的の地域です。
店舗や事務所、劇場、映画館などは床面積の制限なく建設可能です。
工場も150㎡以内で危険性や環境悪化のおそれが少ないものなら建てることができます。
生活の利便性は高いですが、人通りや車通りが多いので日中に家にいない家庭ならいいかもしれません。
商業地域
ターミナル駅前の繁華街や百貨店のある地域が商業地域に指定されていることが多いく、非常ににぎやかです。
ターミナル駅が近く、大型店舗も多いので利便性は高いです。
商業地域は風俗店も建設可能なので、歓楽街としての一面がある場所もあります。
そのため子どもが小さいと治安面で不安なこともあります。
地価が高くなる傾向があるので、一戸建てを建てるには向いていません。
多くの場合はマンションに住む方が現実的です。
《工業系》用途地域 3種類
主に工場の利便性を優先している地域です。
住宅を建てることができる地域では比較的環境に悪影響のある工場は建てることができません。
空気汚染や水質汚染は少ないかもしれませんが、ある程度の大きさの工場ではコンプレッサーなどの機械や出入りする大型トラックなどの音や振動、排気ガスがありますので公害が気になってしまう可能性もあります。
工場関係者を獲得するために飲食店や店舗が建っていることも多いので、利便性はまあまあ高いです。
早朝や夕方は工場に通勤する方々で道路が渋滞することもあります。
さらにその時間以外でも大型トラックが行き交う可能性もあります。
準工業地域
工業系の地域の中では比較的危険性は少なめの地域です。
ただ、「危険性が大きいか著しく環境を悪化させるおそれがある工場」は建てることができないだけで、環境に悪い工場も建つ可能性があります。
準工業地域では学校や保育施設、病院も建設可能です。
(工業地域、工業専用地域では建設不可)
そのため、案外住宅も多い地域です。
商業地域に次いでほとんどの用途の建物を建てることができる地域なので、利便性は高いです。
近くの工場で働く方は準工業地域を考えてみるのもありかもしれません。
工業地域
危険性や著しく環境を悪化させる可能性が大きいものも含めて、どんな工場でも建てることができます。
住宅と店舗も建てることはできますが、ホテルや病院、教育施設は建てることはできません。
トラックの交通量も多くなります。
将来、土地の周辺にどんな建物がたつかわからない恐さは大きいです。
危険性の高い工場が建ったとしても文句は言えません。
工業専用地域
工場のための地域です。
住宅を建てることはできませんので、絶対に購入しないようにしてください。
まとめ
「どの用途地域がいいか」はそこに家を建てる家庭によって異なります。
日当たりや静かさの住環境を重視する方や、なるべく敷地いっぱいまで家を建てたい方、多少交通量が多かったりにぎやかでも買い物などの利便性を重視する方、いろいろな意見があっていいと思います。
大切なことは、その地域の街づくりのテーマを知り、将来起こりうるリスクを察知して家づくりに活かし、事前に対策しておくことです。
日当たりを重視したいけど高い建物が建てられる地域なら、家の配置や間取り、窓の位置に注意して、将来周辺に高い建物が建っても、ある程度の日当たりが確保できるように対策することが大切です。
全てのリスクを回避することはできませんが、大ケガをスリ傷くらいに軽減させることはできるはずです。